日本国(大日本帝国)の後始末

 未曾有の円安が日本円という通貨の価値そのものを破壊している。勿論、これはあくまでも米ドルやユーロといったハードカレンシー(強い通貨)に対する通貨安であり、それ以外の通貨に対する通貨安ではないのだが、それでも曲がりなりにハードカレンシーの一角であった日本円が急速にその地位を失いつつあるのは事実である。そして、日本という大国の通貨がその価値を暴落させるという現象が続くと、ある臨界点に達したところで日本という国は事実上「経営破綻」することになる。一部の「自称経済通」は、日本が自国通貨建てで国債を発行しているという理由で「日本は財政破綻なんてしない」と譫言を言っているが、そもそもの日本円の価値自体が破壊されてしまえば日本国債も当然紙屑に成り果てるわけだから、そんな譫言に意味が無いのは最早自明としか言いようがない。

 さて、日本国が本当に経営破綻するかどうかはともかくとして、「その日」が来るということは、すなわち西側自由主義陣営からしてみれば日本国という重要なパートナー・お得意先・プレーヤーが事実上戦闘不能になるということであるから、アメリカを筆頭とする西側諸国としては、そのような事態は何としても避けたいはずである。何なら、アメリカ合衆国にとって最大の仮想敵国(?)である中華人民共和国でさえ、本質的には社会主義権威主義の皮を被った重商主義国家であり、しかもアメリカ以上に日本に深く依存している以上、そのような事態はやはり避けたいことだろう。つまり、日本国の経営破綻という「事実上の滅亡」は、少なくとも西側諸国、それどころか(一部のならず者国家を除く)ほぼ全ての国々にとって大打撃となる以上、実際に「その日」が来る前に、今ある日本国政府を解体する方向へと何らかの介入が行われるのは確実だろう。となると、必然的に「日本国の後始末」という厄介な問題に直面することになる。本記事ではこれについて考えたい。

 

 さて本題に入るが、そもそも未曾有の円安(円弱*1)が起こっているのはなぜか。それを先に整理しておこう。

 円安(円弱)が起きているのは、一言でいえば日本政府が利上げをしないからである。より厳密に言うと、コロナ後の関西圏を中心としたインバウンドバブルに起因する「リアルインフレ」が起きているにも関わらず、日本政府が日本銀行金利を引き上げて*2それに対応しないというのが原因である。ではなぜ利上げをしないのだろうか。実はここに「日本国の後始末」の本質となる要素が潜んでいる。

 結論を先に言うと、もし今の日本で利上げを行うと、それまで続いていた「東京の土地バブル」が一気に弾けてしまい、それによって維持されていた東京至上主義体制が一気に崩壊してしまうのである。すなわち、東京の地価や不動産価格が暴落し、東京にそれらを持つ企業や個人の資産が一気に破壊され、あらゆる場面において東京が一番であるという「建前」が崩れ落ちるということである。勿論、普通の感覚であれば、そんなしょうもない理由で利上げを渋るのかと思うだろう。たかが「東京の地価」ごときのために、日本国民の生活や、普通に利益を生み出そうとしている企業の経営を圧迫する必要はどこにもないはずだと考えるのがまともな感覚であろう。しかし、現実は東京に不動産を持ち、それらからの収入だけで何とか食い繋いでいる(言い換えると、普通に利益を生み出すための努力を放棄している)JTC*3、とりわけ地上波キー局の猛烈な圧力の前に、日本政府(もっと言えば霞ヶ関の官僚)が結託して、一般国民の生活を犠牲にしてまで東京の地価を死守しようとしている。もっと言えば、東京の地価しか見ていない地上波キー局やJTCは、ここまで述べてきた異常なまでの円安の問題に限らず、それこそ近年の例で言えば翌2025年に控えた大阪万博に対する異常なまでのネガティブキャンペーンやデマ発信など、およそあらゆる暴力的な手段を講じてまで、東京の地価が上がり続ける状態(=東京地価バブル)を維持し続けているのである。

 

 さて、円安になる(円が弱くなる)理由の説明が終わったところで、いよいよ本題である「日本国の後始末」について考えたい。とはいえ、まずはその「日本国の後始末」とは何ぞやというところから説明しなければならない。そうは言っても、「日本国の後始末」というのは、そんなに難しい話ではない。早い話が、過去の失政によって生じた多額の財政赤字清算であり、より広い意味における「日本国(大日本帝国)」という体制の破綻処理である。先程、「日本国」の後に括弧書きで大日本帝国と書いてあるが、実は今の日本国というのは1945年9月2日*4までの大日本帝国の直接の継承国家である。そして、その「大日本帝国」の残した負の遺産を完全に清算しないまま今に至っているということを指摘するために、あえて「日本国(大日本帝国)の後始末」と呼んでいるのである。

 ここで、今までの文脈には影も形も無かった「大日本帝国」がいきなり出てきたわけだが、実はこれにも意味があって、それは今の日本国の体制はかつての大日本帝国末期の国家総動員体制=1940年体制*5をそのまま引き継いでいるということを指摘するために、あえて「大日本帝国」と後ろに括弧書きしたわけである。そもそも、1868年の明治維新にその端を発する大日本帝国は、富国強兵という時代の要請を受けて中央集権的・帝国主義的に発展してきたわけだが、その一方で立憲主義的な国家運営を目指すべく大日本帝国憲法を制定し、維新の元勲による寡頭政治から漸進的に民主政治を成熟させようと腐心してきたのも事実である。その象徴とも言えるのが天皇機関説であり、実際に当時の昭和天皇天皇機関説こそが大日本帝国憲法の公式解釈であるべきであると述懐していた*6。しかし、その天皇機関説は不運にも国家主義者(という名の全体主義者)や「国民を食わせるために」大陸への進出を強硬に推進していた帝国陸軍によって排撃され、それどころか立憲主義とは正反対の国家総動員体制に成り果て、結果として大日本帝国は国土を焼夷弾と原爆により焼き尽くされて崩壊したのである。

 話を戻すと、我が国は1945年の敗戦をもって一応GHQにより「民主化」されたわけだが、そのGHQもかつて大日本帝国にあった立憲主義を腐敗させた諸々の要因をそう簡単に取り除くことはできず、また戦後のアメリカの占領政策に伴う日本の復興の都合もあってか(早い話が、国民を「食わせる」ための都合で)、国家総動員体制を温存せざるを得なくなったわけである。そして、その国家総動員体制は確かに高度経済成長という形で日本に経済成長の果実を齎したものの、結果として今のような歪な状況に繋がる諸々を放置し、助長することになったのである。だからこそ、今現在のような危機的な状況下でできる最善いや次善の策として、「日本国(大日本帝国)の後始末」を考えなければならないのである。

 

 さて、私が考える「日本国(大日本帝国)の後始末」の具体的なプランについてだが、まずは日本円という通貨をある一定の水準で米ドルにペッグする(事実上の固定相場制にする)というのが第一段階となる*7。これによりこれ以上の円安を食い止め、通貨価値を安定化させることができる。その次に、金利の引き上げを断行し、インフレを抑える必要がある。インフレは確かに好景気を齎すわけだが、それでも賃金の伸びがそれに追いつかないのであればそれを是正しなければならないので、これも通貨価値の安定化のために必要になってくる。このようにして日本円という通貨の価値の変動が対外的にも内的にも落ち着いたところで、いよいよ大規模な構造改革に取りかかればよいだろう。勿論ここで言う構造改革はあまりにも多岐にわたるため、その具体例を上げるのは割愛するが、いずれにせよ必要な改革なしに長期的な日本経済の復活トレンドは実現しないと断言できる。ここまでが「日本国(大日本帝国)の後始末」の大まかなロードマップである。なお、それぞれの具体的な詳細については、私自身がこの手の財政学等々に関しては門外漢であることから、これ以上は深く言及しないこととする。

 今回の記事はここまでとする。今の日本は歴史的にも極めて重要な転換点の只中にある。そこで賢明な判断が下せるかどうかが、今後の日本の国運の盛衰にそのまま直結するのは言うまでもない。また、「日本国の後始末」についても、私が示したプランはあくまでも数あるアイディアの一つに過ぎないということを忘れてはならない。

*1:実は円安/円高というのは、英語では円が「弱くなる/強くなる」と表現する。

*2:インフレが起きたら、それを是正するために政府が中央銀行政策金利を引き上げるのが普通である。デフレの場合はこの逆となる。

*3:Japanese Traditional Company(日本の古い体質の企業、特に東京に実質的な本社機能を置く大企業)

*4:大日本帝国ポツダム宣言を受託し降伏文書に調印した日。

*5:過去記事 グローバル時代の新国家論(2)〜東京の時代の終わり - スカーレットの雑記帖 を参照のこと。

*6:しかし、昭和天皇はそれゆえに立憲君主としての限界を悟り、それを公的な場で明言することはしなかった。これも昭和天皇立憲君主であろうとしていたことを示すエピソードの一つである。

*7:なお、この米ドルへのペッグも、「日本国の後始末」が終わればその段階で解除することになる。もっと言えば、このドルペッグの解除をもって、「日本国の後始末」は終わりとなる。