関西コンサート会場問題とエンタメ産業の構造的矛盾(1)

関西圏に大規模アリーナの建設を!

 先日、関西圏を中心とする都市開発クラスタの間で、衝撃的なニュースが飛び交った。発端はOsaka Metro森ノ宮新駅に併設される予定のコンサート会場の整備計画に対する見直しを求めた以下の記事である。関西圏に1万5千席クラスのアリーナを早急に整備しないと、音楽ライブの東京一極集中が加速度的に進み、音楽文化の衰退に繋がりかねないという危機感が伝わってくる。

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 さて、この記事を読むと、確かに大規模集客施設の関西圏における供給が、その需要に追いついていないことがわかる。それだけではなく、大相撲春場所が定期開催されているエディオンアリーナ大阪など、既存の施設も実はかなり老朽化が進んでいるのも事実である。つまり、新規の大規模集客施設を建設しつつ、既存の集客施設も同様にリニューアルを進めていく必要がある。既に大阪では、カジノや温浴施設、ホテル、商業施設、MICE施設などを擁する大規模IR(統合型リゾート)の誘致が内定している。それだけではなく、森ノ宮新駅もそうだが吹田市や神戸市などでも新規の集客施設の建設計画が持ち上がっている。ただでさえ、大阪は空前のインバウンドバブルに沸いているが、2025年の万博と2029年のIR開業でその流れはさらに拡大し、いずれは関西圏全体を巻き込む未曾有の一大ムーブメントになるだろう。そうなると、大阪は必然的に「国際都市」としての格をさらに高めていく流れに乗り、当然ビジネス来訪需要も増大するわけだから、観光・エンタメの面だけでなく、ビジネス面でも大規模集客施設の需要に応えるのは火急の課題である。だからこそ、1万5千席クラスの集客施設を2〜3個のみならず、欲を言えば2万席クラスの集客施設も建てたほうが良いだろう。近年の目覚ましい経済的躍進により大規模集客施設の需要が高まっている大阪・近畿圏において、その需要に供給が応えないのは、その躍進の流れにブレーキをかけることは言うまでもないだろう。

《補足》甲子園のドーム化について

 阪神甲子園球場に限らず、プロ野球の本拠地球場がプロ野球のオフシーズンにコンサートホールとして供用されることはしばしばあり、実際に5大ドーム公演なる概念が存在するくらいである。そして、それらはいずれもここまで述べた集客施設とは比べ物にならないほどのキャパシティをもつ。ここで、阪神甲子園球場について述べるが、現状は屋外球場ということもあり、プロ野球のオフシーズンである冬季のコンサート開催に関して興行主催側からしてみると非常に使いづらい会場となっている。

 そこで、筆者は阪神甲子園球場のドーム化リニューアルを提言したい。勿論、これはオフシーズンにおける音楽ライブの開催時における利便性のことだけを考えているわけではない。そもそも、プロ野球のレギュラーシーズンである春から秋にかけて雨天の日が多い我が国では、屋外球場というのは日程消化におけるネックとなっている。さらに、甲子園は春夏の高校野球全国選手権の会場としても使われるが、特に夏において炎天下で試合に臨む高校球児たちの健康管理を考えると、今の甲子園をドーム化する方が望ましいのは言うまでもないだろう。ナゴヤドームのように完全閉鎖式にするのでも、福岡ドームのように開閉屋根にするのでも、あるいは西武ドームのように既存の施設の上に屋根を被せる形でも何でも構わないので、甲子園に屋根をつけることは喫緊の課題と言えるだろう。とにかく、別の意味で制約の多い大阪ドーム*1も含めて、今の関西圏の大規模集客施設が不足しているのは事実である。

 

首都圏の既存の会場の供給過多については?

 ここまで、関西圏における大規模集客施設の供給不足についての観点から持論を展開した。しかし、これに関して言えば実は関西圏も含めた他の地方(要は首都圏以外)においても大規模集客施設の供給が不足していたり、供給はあっても交通が不便なため興行主催者がその利用を敬遠したりする例が存在する。つまりこの問題は全国的な問題であると言っても過言ではない。そして、その問題とちょうど鏡写しになるような形で、首都圏における大規模集客施設の供給過多という問題が浮上してくる。

 先ほどの出典元の情報によれば、確かに首都圏は(興行主催側からしてみれば)魅力的な大規模集客施設はたくさんあるわけだが、それでも関西圏と比較したときにどうしても「これ、多すぎない?」という疑念が湧いてくるのは事実である。首都圏の人口は関西圏の約1.5〜2倍であることと、関西圏に1万5千席クラスの施設が無いことを踏まえたとしても、明らかに供給過多である感は否めない。特にさいたまスーパーアリーナについては、最大で3万席という巨大な施設であるのだが、果たしてその席を(地方からの多額な遠征費用の負担なしに)満席にできるだけの集客力のあるコンテンツはどれほどあるだろうか?それを考えると、首都圏におけるコンサート開催の目的が、施設側の都合による(首都圏に点在する大きいハコを定期的に埋めるためにコンサートをやってもらっている)ものもあるという解釈もできるだろう。つまり、コストのかかる地方(ここでは首都圏以外を指す)での公演を避けたい興行主側の事情と、ハコを埋めてもらいたいという施設側の事情が合致していて、それ故に音楽ライブコンテンツなどの公演が首都圏に偏っているというのは否めないだろう。

 

 長くなるので一旦ここで区切ります。続きは次回の記事で。

*1:地盤が軟弱なうえにすぐ側に総合病院があるため、音楽コンサートによく見られる観衆のジャンプは禁止されている。